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百人一首の一覧(+決まり字)

百人一首の一覧(+決まり字) タイトル || image

正月に行う粋で鯔背(いなせ)で乙な遊びは、やっぱり百人一首ということで、意味や決まり字を調べまとめてみました。調査した具体的な項目は、
・ どの和歌集から撰者の藤原定家が選定したのか
・ 訳:歌はどういう意味なのか
・ 決まり字:上の句の何字目で、下の句がわかるのか
・ 作品番号:概ね年代順に並んでいるそうです

また、百人一首は「紫式部の娘」や「和泉式部の娘」と親子それぞれの作品があったりと、探っていくと違った楽しみが見えてきます。恋の歌が多いので昔と現代の感覚的な違いを感じれるかもしれません。

【 目次:百人一首の一覧(+決まり字) 】
「小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)」とは
百人一首の一覧【1】(+決まり字)1〜50
百人一首の一覧【2】(+決まり字)51〜100
変わり種:ジョジョの奇妙な百人一首

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 「小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)」とは

百人一首の一覧(+決まり字) 仕切り

『小倉百人一首』は、鎌倉時代に藤原定家(ふじわらのさだいえ)が、天智天皇から順徳天皇に至るまでの著名な歌人百人の歌を一首ずつ集め、ほぼ年代順に並べたもの。京都・嵯峨野の別荘「小倉山荘」の襖み張ったといわれるところからこの名がついた。撰者は、宇都宮頼綱(うつのみやよりつな)であるという説もある。


 「基本的修辞」

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・ 枕詞(まくらことば)

特定の語句の前に置かれ、これを修飾したり句調を整える語句。通常五音からなる。

・ 序詞(じょことば)

ある語句を導き出すために前置きとする語句。枕詞とは異なり音数も内容も自由。

・ 掛け詞(かけことば)

同音異義語の語句を利用して、一語に二つ以上の意味をもたせる技法。

・ 縁語(えんご)

ある語句に意味上関係のある語を意図的に用いる技法。

・ 本歌(ほんか)取り

有名な古歌(本歌)をもとに作歌すること。

・ 歌枕(うたまくら)

和歌に詠み込まれる諸国の名所の名。


 「決まり字

百人一首の一覧(+決まり字) 仕切り

歌を読んでいったとき、その字までくればどの一首かが確定するという字のことを「決まり字」といいます。
小倉百人一首の決まり字は、
・ 1字決まり: 7首
・ 2字決まり: 42首
・ 3字決まり: 37首
・ 4字決まり: 6首
・ 5字決まり: 2首
・ 6字決まり: 6首
から成り立っています。

百人一首の一覧(+決まり字) コンテンツ仕切り

 百人一首の一覧【1】(+決まり字)001〜050

百人一首の一覧(+決まり字) 仕切り

001

3字決まり

あ行

後撰集・秋中

秋の田の かりほの庵の 苫を粗み わが衣手は 露に濡れつつ

天智天皇

あきのたの かりほのいお(ほ)の とまをあらみ わがころもては つゆにぬれつつ

てんじてんのう

【 訳 】
秋の田の刈った稲穂の番をする仮小屋の屋根は、ふいた苫の編み目が粗いので、そこに泊まる私の衣の袖は、夜露に濡れてかわくひまもないことである。
▼ 「かりほ」に「仮庵」と「刈り穂」をかけている。

002

3字決まり

は行

新古今集・夏

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山

持統天皇

はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま

じとうてんのう

【 訳 】
春が過ぎて夏が来たのだなぁ。天の香具山に白い夏の衣が干してあることよ。

003

2字決まり

あ行

拾遺集・恋三

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む

柿本人麻呂

あしひきの やまとりのおの しだりおの なかなかしよを ひとりかもねむ

かきのもとのひとまろ

【 訳 】
山鳥の長く垂れ下がっている尾のように長い夜を、独りでさびしく寝ることかなあ。

004

2字決まり

た行

新古今集・冬

田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ

山辺赤人

たごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ

やまべのあかひと

【 訳 】
田子の浦に出て眺めやると、真っ白な富士の高嶺に雪がしきりに降り続いている。

005

2字決まり

お行

古今集・秋上

奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき

猿丸大夫

おくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき

さるまるだゆう

【 訳 】
奥深い山に散り敷いたもみじを踏み分けて、鳴いている鹿の声を聞くとき、とりわけ秋の悲しさを感じることだ。

006

2字決まり

か行

新古今集・冬

鵲の 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける

大伴家持

かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける

おおとものやかもち

【 訳 】
鵲(かささぎ)が天の川に架けた橋を思わせる宮中の御橋におりている霜の真っ白いのを見ると、もう夜も更けたことだと思われるよ。
▼ 「鵲の橋」の解釈には、宮中を天上になぞらえていう「(宮中の)殿舎の階段、御階」のほか、陰暦七月七日の七夕の夜に牽牛(けんぎゅう)・織女(しょくじょ)の二星が会うとき、鵲が翼を並べて天の川にかけ渡すという伝説の橋から、「男女の契りの橋渡しのたとえ」とする説もある。

007

3字決まり

あ行

古今集・羇旅(きりょ)

天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも

安倍仲麿

あまのはら ふりさけみれば かすかなる みかさのやまに いでしつきかも

あべのなかまろ

【 訳 】
大空をはるか遠く仰いで見ると月が出ているが、あの月はかつて、故郷の春日にある三笠山に出た月だなあ。
▼ 遣唐使で唐に渡ったまま帰国できずにいた仲麻呂が、故郷をしのんで詠んだ歌。

008

3字決まり

わ行

古今集・雑下

わが庵は 都の辰巳 しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり

喜撰(法師)

わがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり

きせん(ほうし)

【 訳 】
私の草庵は都の東南の鹿の住むような山の中だが、このように心安らかに暮らしている。それなのに、私がこの世を「憂(う)し」と厭って宇治山に隠れ住んでいると、世間の人は言っているそうだ。
▼ 「しかぞ住む」の「しか」に「鹿」と「然(しか)」とを、「うぢ山」の「う」に「憂(う)」をかけている。なお、「鹿」の意味はかかっていないという説もある。

009

3字決まり

は行

古今集・春下

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に

小野小町

はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに

おののこまち

【 訳 】
桜の花の色は、すっかりあせてしまったことよ。私がむなしくこの世に時を過ごし、物思いにふけっていた間に、降り続く長雨に打たれて。ー私の美しい姿形もおとろえてしまったよ。むなしく時を過ごし、物思いにふけっている間に。
▼ 「わが身世にふる」の「ふる」は「降る」と「経(ふ)る」とを、「ながめ」は「長雨」と「眺め」とをかけている。

010

2字決まり

こ行

後撰集・雑一

これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関

蝉丸

これやこの いくもかえるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき

せみまる

【 訳 】
これがまあ、都から東国へ行く者も都へ帰る者も、また、互いに知っている者も、ここで別れてここで出会うという、逢坂(逢う坂)の関であるなあ。
▼ 「逢坂の関」は、歌枕。近江の国と山城の国境にある逢坂山のふもとに置かれた関所で、京都から東国への出口。

011

6字決まり

わ行

古今集・羇旅(きりょ)

わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣り舟

小野(参議)篁

わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね

おののたかむら

【 訳 】
広い海原の数多くの島を目指して船出したと、都にいる私の親しい人に告げておくれ、漁師の釣り船(の人)よ。
▼ 詞書(ことばがき:和歌の前書き)によれば、流罪によって難波(なにわ)から隠岐(おき)へ船出する折に詠んだ句。「人」は、都に残る妻や母であろう。

012

3字決まり

あ行

古今集・雑上

天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ

(僧正)遍昭

あまつかぜ くものかよひち ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ

(そうじょう)へんじょう

【 訳 】
空を吹く風よ、雲の中の通路を吹き寄せて閉ざしてしまえ。美しく舞う天女の姿をしばらくここにとどめておこうと思うから。
▼ 作者が「五節(ごせち)の舞姫(※)」を天女に見立てて詠んだ歌。
※ 五節の舞姫:大嘗祭や新嘗祭に行われる豊明節会で、大歌所の別当の指示のもと、大歌所の人が歌う大歌に合わせて舞われる、4~5人の舞姫によって舞われる舞。大嘗祭では5人。
※よしこ(後の小野小町)の入内の際に読まれた歌ともいわれる。

013

2字決まり

つ行

後撰集・恋三

筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞ積もりて 淵となりぬる

陽成院

つくばねの みねよりおつる みなのかわ こひぞつもりて ふちとなりぬる

ようぜいいん

【 訳 】
筑波山の峰から落ちる男女川(みなのがわ)が、だんだんと水量を増して深い淵となるように、初めは淡い思いだった私の恋も、積もり積もって今では淵のように深くなってしまったよ。
▼ 『後撰和歌集』では第五句「淵となりぬる」が「淵となりける」。
※陽成院の現存する句はこの一句のみ。

014

2字決まり

み行

古今集・恋四

陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに

源融
(河原左大臣)

みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに

みなもとのとおる

【 訳 】
陸奥の信夫(しのぶ)で作られる染め物、「しのぶもぢずり」の乱れ模様のように、いったいだれのせいで私の心は乱れ始めたのか、私のせいではないのに。
▼ 「私の心が乱れるのはすべてあなたのせいです」と、つれない相手に自分の気持ちを訴える歌。『古今和歌集』では第四句「乱れそめにし」が「乱れむと思ふ」。

015

6字決まり

き行

古今集・春上

君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ

光孝天皇

きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ

こうこうてんのう

【 訳 】
あなたのために春の野に出て若菜を摘む私の袖に、雪がしきりに降りかかることだ。

016

2字決まり

た行

古今集・離別

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む

在原行平

たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ

ありわらのゆきひら

【 訳 】
あながたとお別れして因幡の国へ行くが、いなば山の峰に生えている松のように、あなたがたが私を待っていると聞いたなら、すぐにでも帰って来よう。
▼ 作者が因幡の守(かみ)として赴任するとき、見送りの人々との別れを惜しんで詠んだ歌。「いなば」は「往なば」と「因幡」とをかけ、「まつ」は「松」と「待つ」とをかけている。
※在原行平は在原業平の腹違いの兄、一本気な人だったとか。

017

2字決まり

ち行

古今集・秋下

ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 韓紅に 水くくるとは

在原業平

ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは

ありわらのなりひら

【 訳 】
不思議なことが多かったという神代の昔も、こんなことは聞いたことがない。竜田川の水を、紅葉の葉が紅にくくり染めにするなんて。
▼ 詞書(ことばがき:和歌の前書き)に、紅葉の流れる竜田川を描いた屏風絵を題として詠んだとある。紅葉を浮かべる竜田川のさまを、くくり染めの織物に見立てた歌。
※在原業平は在原行平の腹違いの弟、イケメンなプレイボーイだったとか。

018

1字決まり

す行

古今集・恋二

住江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目避くらむ

藤原敏行

みのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ

ふじわらのとしゆき

【 訳 】
住江の岸に寄る波、その「よる」ということではないが、夜までも夢の中の通い路で、どうしてあなたは人目を避けているのだろうか。
▼ 女性の立場で人目を忍ぶ恋を詠んだ歌。「岸に寄る波」までは「よる」を導く序詞(じょことば)。「よる」に「寄る」「夜」とをかけている。「避く」の主語を作者自身とする説もある。

019

4字決まり

な行

新古今集・恋一

難波潟 短き葦の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや

伊勢

なにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや

いせ

【 訳 】
難波潟に生えている葦の、あの短い節と節との間のようなほんのわずかな間でさえも、会わないのでこの世を過ごせと仰るのですか。
▼ 「短き葦の」までは「節の間」を導く序詞(じょことば)。「この世」の「世」は「節(ふし)」を響かせた「葦」の縁語(※)。
※ 縁語:修辞法の一。和歌や散文の中などで、一つの言葉に意味上縁のある言葉を使って表現に面白みを出すこと。また、その縁のある一組の言葉。

020

2字決まり

わ行

後撰集・恋五

わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ

元良親王

わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ

もとよししんのう

【 訳 】
つらい思いに嘆き苦しんでいる今は、難波にある、舟の水路を示す「澪標(みおつくし)」という言葉のように、この身をつくしてもあなたにお逢いしようと思う。
▼ 宇多(うだ)天皇の女御である京極御息所(きょうごくのみやすのどころ)との密事が露見したときに、御息所に詠んで贈った歌。「みをつくし」に「澪標」と「身を尽くし」とをかけている。

021

3字決まり

い行

古今集・恋四

今来むと 言ひしばかりに 長月の 有り明けの月を 待ち出でつるかな

素性法師

いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな

そせいほうし

【 訳 】
すぐ来るとあなたが言ったばかりに、秋は秋九月の夜長を待ち続けて、とうとう、待ちもしない有り明けの月が出てしまったことよ。
▼ 女性の立場に仮託して待つ身のつらさを詠んだ歌。

022

1字決まり

ふ行

古今集・秋下

吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ

文屋康秀

くからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ

ぶんやのやすひで

【 訳 】
吹くとすぐに秋の草木がしおれるので、なるほどそれで山風を「荒らし」といい、「嵐」と書くのであろう。
※「山風」=「嵐」いわゆる粋な駄洒落である。

023

2字決まり

つ行

古今集・秋上

月見れば 千々に物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど

大江千里

つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど

おおえのちさと

【 訳 】
月を眺めていると、さまざまに心が動いて物悲しくなる。自分ひとりだけに来た秋ではないけれども。

024

2字決まり

こ行

古今集・羇旅(きりょ)

このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに

菅原道真

このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに

すがわらのみちざね

【 訳 】
今度の旅はあわただしくて、幣(神への供え物)の用意もできなかった。道の神よ、せめてこの手向山の錦のように美しい紅葉を、神の御心のままに幣としてお受け取りください。
▼ 「このたび」に「この度」と「この旅」をかけ、「たむけやま」に「(幣を)手向ける」意をかけている。

025

3字決まり

な行

後撰集・恋三

名にし負はば 逢坂山の さねかずら 人に知られで 来るよしもがな

藤原定方

なにしおはば あふさかやまの さねかずら ひとにしられで くるよしもがな

ふじわらのさだかた

【 訳 】
逢坂山が「逢う」という名を負っているなら、「さ寝」ということばにも通じる逢坂山のさねかづらをたぐるように、人には知られずに、あなたに逢いに来る方法があればよいなあ。
▼ 「逢坂山」に「逢ふ」を、「さねかづら」に「さ寝」を、「くる」に「繰る」と「来る」とをかけている。

026

2字決まり

お行

拾遺集・雑秋

小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ

藤原忠平

をぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ

ふじわらのただひら

【 訳 】
小倉山の峰のもみじの葉よ、もしお前に物の趣を解する心があるならば、もう一度の行幸があるまでその美しさのまま散らないで待っていてくれよ。

027

3字決まり

み行

新古今集・恋一

みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ

藤原兼輔

みかのはら わきてなかるる いつみかは いつみきとてか こひしかるらむ

ふじわらのかねすけ

【 訳 】
みかの原に湧き出て、その原を流れる「いづみ川」ではないが、いったいいつ見たというので、こんなにあの人が恋しいのであろうか。
▼ 上三句は「いづみ」と同音の「いつ見」を導く序詞(じょことば)。「わきて」は「泉」の縁語で、原を「分きて」と「湧きて」とをかけている。

028

3字決まり

や行

古今集・冬

山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば

源宗于

やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば

みなもとのむねゆき

【 訳 】
山里は、冬には寂しさがひとしお感じられる。人の訪れも途絶えて、草も枯れてしまうと思うと。
▼ 「かれ」は「離れ」と「枯れ」とをかけている。

029

4字決まり

こ行

古今集・秋下

心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花

凡河内躬恒

こころあてに おらばやおらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな

おおしこうちのみつね

【 訳 】
もし折るのなら、当て推量で折ってみようか。初霜がおりて、その白さのせいで、どれが花だかわからなくなってしまっている白菊の花よ。

030

3字決まり

あ行

古今集・恋三

有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし

壬生忠岑

ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし

みぶのただみね

【 訳 】
明け方のそっけない月のように、あなたが薄情に見えたあの別れ以来、夜明け前ほど、つらく情けないものはない。
▼ まだ暗い「暁」は、平安時代の結婚生活においては、女の家に通って来た男が、女と別れて帰らなければならない時とされていた。

031

6字決まり

あ行

古今集・冬

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪

坂上是則

あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき

さかのうえのこれのり

【 訳 】
しらじらと夜が明けるころ、まるで明け方の月の光が照っているのかと見まちがえるほどに明るい、吉野の里に降り積もっている白雪であるなあ。

032

3字決まり

や行

古今集・秋下

山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり

春道列樹

やまかはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり

はるみちのつらき

【 訳 】
山あいの川に風がかけ渡した、水をせき止める柵は、流れようとしても流れることができないでいる紅葉であったよ。

033

2字決まり

ひ行

古今集・春下

ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ

紀友則

ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづこころなく はなのちるらむ

きのとものり

【 訳 】
日の光がのどかな春の日に、どうして落ち着いた心もなく、桜の花は散り急ぐのだろうか。

034

2字決まり

た行

古今集・雑上

誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに

藤原興風

たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに

ふじわらのおきかぜ

【 訳 】
(年老いた私は)いったいだれを昔からの知人としようか。(あの高砂の年老いた松ぐらいだが)高砂の松も、昔からの友人ではないのだがなあ。

035

3字決まり

ひ行

古今集・春上

人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける

紀貫之

ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける

きのつらゆき

【 訳 】
あなたのお心は、さあ、どうだか知りませんが、昔なじみのこの里の梅の花は、昔と変わらないままのよい香りを放っていることですよ。

036

2字決まり

な行

古今集・夏

夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいずこに 月宿るらむ

清原深養父

なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいずこに つきやどるらむ

きよはらのふかやぶ

【 訳 】
短い夏の夜は、まだ宵のつもりでいるうちに明けてしまったが、いったい、月は雲のどのあたりに宿っているのだろうか。(西の山に隠れるひまもなかっただろうに)

037

2字決まり

し行

後撰集・秋中

白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

文屋朝康

しらつゆに かせのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまそちりける

ぶんやのあさやす

【 訳 】
(草の葉の)白露に、風がしきりに吹いている秋の野は、糸で貫き通していない玉が散りこぼれているように見えることだよ。

038

3字決まり

わ行

拾遺集・恋四

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな

右近

わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな

うこん

【 訳 】
あなたに忘れ去られるわが身のことは、なんとも思いません。けれども、私を忘れないと神に誓ったあなたの命が、神罰で縮みはしないかと思うと、惜しまれることですよ。
▼ 『大和物語』第八十四段にもある歌。

039

3字決まり

あ行

後撰集・恋一

浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき

源等

あさぢふの をののしのはら しのぶれと あまりてなどか ひとのこひしき

みなもとのひとし

【 訳 】
丈の低いちがやの生えた小野の篠原の「しの」ということばのように、あなたへの思いを忍んでこらえようとしているのにこらえきれず、どうして、こんなにもあなたが恋しいのだろうか。
▼ 第二句の「小野の篠原」までは同音の「しのぶ」を導く序詞で、姿を隠しきれないことの比喩ともする。本歌は『古今和歌集』恋一「浅茅生の小野の篠原忍ぶとも人知るらめやいふ人なしに」。

040

2字決まり

し行

拾遺集・恋一

忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで

平兼盛

しのぶれと いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで

たいらのかねもり

【 訳 】
じっと心に秘めていたのだけれど、とうとう顔色に出てしまったよ、私の恋心は。何を物思いしているのかと人が聞くほどに。
▼ 『天徳四年内裏歌合』で、041の壬生忠見の歌と合わせられて、勝ちを得た歌。

041

2字決まり

こ行

拾遺集・恋一

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか

壬生忠見

こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか

みぶのただみ

【 訳 】
恋をしているという私のうわさは、早くも立ってしまったなあ。人に知られないように、ひそかに思い始めたのに。
▼ 『天徳四年内裏歌合』で、040の平兼盛の歌と合わせで、惜しくも負けた歌。

042

4字決まり

ち行

後拾遺集・恋四

契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは

清原元輔

ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは

きよはらのもとすけ

【 訳 】
約束したのだったね、お互いに涙に濡れた袖を絞りながら。あの末の松山を波が越すことがないように、決して心変わりはしないと。
▼ 本歌は『古今和歌集』東歌「君をおきてあだし心をわが持たば松山波も越えなむ」。

043

2字決まり

あ行

拾遺集・恋二

逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり

藤原敦忠

あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり

ふじわらのあつただ

【 訳 】
あなたと逢って契りを結んだ後のこの切ない恋心にくらべれば、逢う以前は物思いをしなかったも同然だなあ。

044

3字決まり

あ行

拾遺集・恋一

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし

藤原朝忠

あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし

ふじわらのあさただ

【 訳 】
もし、恋人と逢って契りを結ぶということがまったくなかったならば、かえって、あなたのことも私自身のことも恨んだりはしないだろうに。
▼ 逢ったが故の恋の苦しさを、逆説的に相手に強く訴えた歌。

045

3字決まり

あ行

拾遺集・恋五

あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな

藤原伊尹

あはれとも いふべきひとは おもほえて みのいたづらに なりぬべきかな

ふじわらのこれまさ

【 訳 】
気の毒だと言ってくれそうな人がいるとは思われなくて、このまま空しく死んでしまうにちがいないことだよ。
▼ 冷淡になった相手の女性に、孤独の嘆きを訴えた歌。

046

2字決まり

ゆ行

新古今集・恋一

由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな

曾禰好忠

ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな

そねのよしただ

【 訳 】
由良の海峡を漕ぎ渡る舟人が、楫(かじ、櫓や櫂)を失って、行方も知れずただようように、この先どうなるのかもわからない私の恋の道であるなあ。
▼ 「かぢを絶え」を「楫緒絶え(楫を舟に取りつける綱が切れて)」とする説がある。

047

2字決まり

や行

後拾遺集・秋

八重葎 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり

恵慶

やへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり

えぎょう

【 訳 】
雑草のむぐらが生い茂っている寂しい住まいに、訪れる人は見えないけれど、秋だけは昔のようにやって来たのだなあ。

048

3字決まり

か行

詞花集・恋上

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けて物を 思ふころかな

源重之

かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな

みなもとのしげゆき

【 訳 】
風が激しいので、岩に打ち寄せる波が自分だけ砕け散るように、(あなたのつれなさに)私一人が心砕けて、物思いをするこのごろだなあ。

049

3字決まり

み行

詞花集・恋上

御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ

大中臣能宣

みかきもり ゑしのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ

おおなかとみのよしのぶ

【 訳 】
宮中の御門を守る衛士のたくかがり火が、夜は燃えて昼は消えているように、私の恋の炎も、夜になると燃え、昼は消え入るばかりになり、切ない物思いをしているよ。

050

6字決まり

き行

後拾遺集・恋二

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

藤原義孝

きみがため おしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな

ふじわらのよしたか

【 訳 】
あなたに逢うためならば、死んでも惜しくなかった命でさえも、(逢うことができた今では)長くあってほしいと思うようになったよ。
▼ 恋がいつまでも続くようにと願う歌。

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【 目次:百人一首の一覧(+決まり字) 】
「小倉百人一首(おぐらひゃくにんいっしゅ)」とは
百人一首の一覧【1】(+決まり字)1〜50
百人一首の一覧【2】(+決まり字)51〜100
変わり種:ジョジョの奇妙な百人一首

百人一首の一覧(+決まり字) コンテンツ仕切り

 百人一首の一覧【2】(+決まり字)051〜100

百人一首の一覧(+決まり字) 仕切り

051

2字決まり

か行

後拾遺集・恋一

かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを

藤原実方

かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを

ふじわらのさねかた

【 訳 】
こんなにあなたに恋しているということだけでも言えましょうか。(いや、とても言えません。)だから、伊吹山のさしも草のように燃えている私の思いがそれほどとは、あなたはおわかりにはならないでしょうね。
▼ 「さしも草」は蓬の異称。「いぶきのさしも草」は同音の「然しも」を導く序詞。「いぶき」には「言ふ」と「伊吹」とをかけている。また、「思ひ」の「ひ」には「火」をかけている。

052

2字決まり

あ行

後拾遺集・恋二

明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな

藤原道信

あけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな

ふじわらのみちのぶ

【 訳 】
夜が明けてしまうと、やがてまた日は暮れるもの(そして、あなたにまた逢える)とわかってはいるものの、やはり恨めしいのは(お別れしなければならない)この夜明けだなあ。

053

3字決まり

な行

拾遺集・恋四

嘆きつつ 独り寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る

藤原道綱母

なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる

ふじわらのみちつなのはは

【 訳 】
あなたがおいでになるのを待ちわびて、ため息をつきながら独りで寝る夜ごとの、その夜が明けるまでの間がどんなに長いものか、あなたはご存知でしょうか、ご存知ではありますまい。

054

3字決まり

わ行

新古今集・恋三

忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな

儀同三司母

わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな

ぎどうさんしのはは

【 訳 】
私のことを忘れまいとおっしゃる、その遠い将来のことまでは頼みにするのは難しいので、愛されている今日を限りに死んでしまいたいことです。

055

2字決まり

た行

拾遺集・雑上

滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ

藤原公任

たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ

ふじわらのきんとう

【 訳 】
(大覚寺に伝わる古い)滝の音は(水がかれて)絶えてしまってから長い年月がたったけれど、その評判だけは世間に流れ伝わって、今なお世間に知られていることであるよ。

056

3字決まり

あ行

後拾遺集・恋三

あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの 逢ふこともがな

和泉式部

あらさらむ このよのほかの おもひてに いまひとたひの あふこともかな

いずみしきぶ

【 訳 】
私は(病が重くなり)間もなくこの世を去ると思いますが、あの世を去ると思いますが、あの世への思い出として、せめてもう一度、あなたにお逢いしたいものです。

057

1字決まり

め行

新古今集・雑上

めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月影

紫式部

ぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかげ

むらさきしきぶ

【 訳 】
しばらくぶりでめぐり逢って、それかどうかもはっきりわからないうちに雲に隠れてしまった夜更けの月のように、(逢ったのかどうかもはっきりしないうちに)あわただしく帰ってしまわれたあなたよ。
▼ 久しぶりに会った幼友達があわただしく帰ってしまった、その名残惜しさを詠んだ歌。『新古今和歌集』の第五句は「夜半の月影」。

058

3字決まり

あ行

後拾遺集・恋二

有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする

大弐三位

ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする

だいにのさんみ

【 訳 】
有馬山から猪名の笹原はそよそよと音を立ててなびくけれど、さあそれですよ、(揺れて心もとないのはあなたの方で)私があなたを忘れましょうか、忘れはしませんよ。
▼ 足が遠のいている男から、お前の心がおぼつかないと言われたのに応えた歌。作者(大弐三位)は紫式部の娘。

059

2字決まり

や行

後拾遺集・恋二

やすらはで 寝なましものを 小夜更けて 傾くまでの 月を見しかな

赤染衛門

やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな

あかぞめえもん

【 訳 】
(あなたがおいでにならないと知っていたなら)ためらわずに寝てしまったでしょうに、夜が更けて、(西の空に)傾くまでの月を見てしまったことですよ。

060

3字決まり

お行

金葉集・雑上

大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立

小式部内侍

おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて

こしきぶのないし

【 訳 】
大江山を越えて生野を通っていく道のりが遠いので、まだその先の天の橋立の地を踏んでいませんし、母からの文も見ていません。
▼ 作者(小式部内侍)は和泉式部の娘。京の歌合わせの歌人に選ばれた作者が、歌は母親の代作かとからかわれて即興で詠んだ歌といわれる。「生野」と「行く野」、「踏みもせず」と「文も見ず」は掛詞。

061

2字決まり

い行

詞花集・春

いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に 匂ひぬるかな

伊勢大輔

いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな

いせのたいふ

【 訳 】
遠い昔に栄えた奈良の平城京で咲いた八重桜が、今日は平安の都の宮中で美しく咲いていることです。
▼ 詞書(和歌の前書き)によれば、ある人が奈良の八重桜を宮中に奉ったとき、「その花を題に歌を詠め」との仰せに従っての即詠であるという。「けふ」は「今日」と「京」の掛け詞。「九重」は宮中の意で、「ここの辺(このあたり)」とかけている。また、「いにしへ」と「けふ」、「八重」と「九重」は、対語になっている。

062

2字決まり

よ行

後拾遺集・雑二

夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関は許さじ

清少納言

よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ

せいしょうなごん

【 訳 】
まだ夜が明けないうちに、鶏の鳴きまねしてだまそうとしても、(中国の故事にあった函谷関(かんこくかん)なら開きましょうが)逢坂の関は決して開かないでしょう。(うまいことをおっしゃっても、私はあなたに逢うことはありますまい)
▼ 藤原行成(ふじわらのゆきなり)の求愛を、中国の史書『史記』孟嘗君(もうしょうくん)伝の故事を巧みに用いながら拒否した歌。「逢坂の関」には、男女が逢う意をかけている。

063

3字決まり

い行

後拾遺集・恋三

今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな

藤原道雅

いまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな

ふじわらのみちまさ

【 訳 】
(逢うことを遮られた)今となっては、ただもう、あなたへの思いをあきらめてしまおうということだけを、人づてではなく、直接あなたにお話しする方法であればよいかなあ。

064

6字決まり

あ行

千載集・冬

朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木

藤原定頼

あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろき

ふじわらのさだより

【 訳 】
しらじらと夜が明けるころ、宇治川に立ちこめていた川霧がとぎれとぎれに晴れて、その絶え間からしだいにあらわれはじめた、あちらこちらの川瀬にかけた網代木(あじろぎ)であるよ。

065

2字決まり

う行

後拾遺集・恋四

恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ

相模

うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ

さがみ

【 訳 】
(あの人のつれなさを)恨み嘆いて、涙に濡れた袖が乾く間もなく朽ちてしまいそうなのさえ惜しいのに、その上、恋の浮き名が立って朽ちてしまいそうな、私の名が惜しいことですよ。

066

2字決まり

も行

金葉集・雑上

もろともに あはれと思え 山桜 花よりほかに 知る人もなし

行尊

もろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし

ぎょうそん

【 訳 】
私がお前をなつかしむのと同じように、お前も私をなつかしいものと思っておくれ、山桜よ。このような山奥には、お前のほかに私の心の知る人はいないのだよ。
▼ 吉野の大峰山の峰入り修行の際の感慨を詠んだ歌。

067

3字決まり

は行

千載集・雑上

春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそをしけれ

周防内侍

はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ

すおうのないし

【 訳 】
短い春の夜の夢ほどのかりそめの戯れに、あなたの腕を枕としてお借りなどしたら、なんの甲斐もなく立ちそうな私の恋の浮き名が口惜しく思われます。
▼ 作者が「枕をがな(枕が欲しい)」とつぶやいたのを聞きつけた大納言忠家(だいなごんただいえ)が、「これを枕に」と、腕を御簾(みす:すだれ)の下から差し入れたのに対する当意即妙の歌。「かひなく」の「かひな」に「腕(かいな)」をかけている。「腕」は「手枕」の縁語。

068

4字決まり

こ行

後拾遺集・雑一

心にも あらで憂き夜に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな

三条院

こころにも あらでうきよに ながらへは こひしかるべき よはのつきかな

さんじょういん

【 訳 】
自分の本心に反して、つらいことの多いこの世に生き長らえているならば、(そのときは)きっと恋しく思い出されるにちがいない、(宮中で眺める)この美しい夜中の月であることよ。
▼ 眼病に悩み、時の権力者である藤原道長(ふじわらのみちなが)から退位を迫られ、在位五年で退位された悲劇を思い浮かべて詠まれた歌。

069

3字決まり

あ行

後拾遺集・秋下

嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり

能因

あらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり

のういん

【 訳 】
激しい風が吹いている三室山のもみじの葉は、竜田川の水面に一面に散り浮かんで、美しい綿を織りなしているよ。

070

1字決まり

さ行

後拾遺集・秋上

寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづくも同じ 秋の夕暮れ

良暹

びしさに やどをたちいてて なかむれは いづくもおなじ あきのゆふぐれ

りょうぜん

【 訳 】
あまりの寂しさに、庵を出てあたりを眺めると、どこもかしこも同じように寂しい、この秋の夕暮れであるよ。

071

2字決まり

ゆ行

金葉集・秋

夕されば 門田の稲葉 おとづれて 蘆のまろ屋に 秋風ぞ吹く

源経信

ゆうされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく

みなもとのつねのぶ

【 訳 】
夕方になると、門前の田の稲の葉にさやさやと音を立てて、葦葺(あしぶ)きの祖末なこの仮小屋に、秋風が吹いているよ。

072

2字決まり

お行

金葉集・恋下

音に聞く たかしの浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ

祐子内親王家紀伊

おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ

ゆうしないしんのうけのきい

【 訳 】
評判の高い高師の浜の、むやみに立ち騒ぐ波のように浮気者と評判の高いあなたには、思いをかけますよ。あなたの気まぐれの波がかかって、涙で袖が濡れたら困りますから。
▼ 「たかし」に地名の「高師」と「高し」とをかけ、「かけじや」には、波をかける意と思いをかける意と思いをかける意をかけている。

073

2字決まり

た行

後拾遺集・春上

高砂の 尾上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ

大江匡房

たかさごの おのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ

おおえのまさふさ

【 訳 】
高い山の峰の桜が咲いたことだよ。人里に近い山の霞よ、(すばらしい桜が見たいから)どうか立ちこめないでおくれ。

074

2字決まり

う行

千載集・恋二

憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ 激しかれとは 祈らぬものを

源人俊頼

うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを

みなもとのとしより

【 訳 】
つれなっかたあの人が私になびきますようにと初瀬の観音さまにお祈りこそしたけれど、初瀬の山おろしよ、つれなさがいっそう激しくなれとは祈りはしなかったのに。

075

4字決まり

ち行

千載集・雑上

契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋も去ぬめり

藤原基俊

ちぎりおきし させもかつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり

ふじわらのもととし

【 訳 】
「私を頼みにしなさい」と約束してくださった「させも草」の歌の、ありがたい露のようなおことばを、命のように大切にしておりましたのに、(望みもかなわず)今年の秋も過ぎ去ってしまうようです。
▼ 息子の僧都光覚(そうずこうかく)を維摩会(ゆいまえ)の講師にと、藤原忠通(ふじわらのただみち)に頼んだところ、「なほ頼め標芽(しめぢ)が原のさせも草わが世の中にあらむ限りは」と請け合ってくれた。なのに今年もまた選にもれたので、その恨みと悲嘆を述べた歌。「させも草」は「さしも草」に同じで、「蓬(よもぎ)」のこと。

076

6字決まり

わ行

詞花集・雑下

わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波

藤原忠通

わたのはら こぎいててみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ

ふじわらのただみち

【 訳 】
大海原に舟を漕ぎ出して見渡すと、雲と見間違えるばかりの沖の白波であることよ。

077

1字決まり

せ行

詞花集・恋上

瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ

崇徳院

をはやみ いわにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ

すとくいん

【 訳 】
川瀬の流れが速いので、岩にせきとめられる滝川の水が、いったんわかれても、下流でまた一つの流れになるように、たとえ今二人が別れても、将来はきっと結ばれると思うよ。
▼ 「われても」は、流れが分かれてもの意と、恋しいあなたと別れても意をかけている。また、「滝川の」までは、「われても」を導く序詞であるが、ここを比喩であるとする説もある。

078

3字決まり

あ行

金葉集・冬

淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝ざめぬ 須磨の関守

源兼昌

あはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり

みなもとのかねまさ

【 訳 】
淡路島へ飛び通う千鳥の(もの悲しく)鳴く声のために、幾晩眠りから覚めたであろう、須磨の関所の番人は。
▼ 「幾夜寝ざめぬ」は「幾夜寝ざめる」で、「幾夜寝ざめたか、幾夜も寝ざめたであろう」となるところの結びが省略された形。

079

3字決まり

あ行

新古今集・秋上

秋風に たなびく雲の 絶え間より 漏れ出づる月の 影のさやけさ

藤原顕輔

あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ

ふじわらのあきすけ

【 訳 】
秋風に吹かれてたなびいている雲の切れ間から漏れて射し出る月の光の、澄みきって清らかなことよ。

080

3字決まり

な行

千載集・恋三

長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ

待賢門院堀河

ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ

たいけんもんいんのほりかわ

【 訳 】
末長く愛してくださるお心であるかどうか(そのお心も私にはわかりません)。黒髪が乱れるように、(お逢いして別れた)今朝は物思いにふけっております。
▼ 後朝(きぬぎぬ:別れの朝)の女性の気持ちを詠んだ歌。「乱れて」は黒髪の乱れと心の乱れとをかけている。

081

1字決まり

ほ行

千載集・夏

ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有り明けの 月ぞ残れる

藤原実定

ととぎす なきつるかたを ながむれは ただありあけの つきぞのこれる

ふじわらのさねただ

【 訳 】
ほととぎすが鳴いた方を眺めると、(その姿はもう見えず)ただ明け方の月だけが空に残っているよ。
▼ 「暁(あかつき)に郭公(ほととぎす)を聞く」の題による歌。

082

2字決まり

お行

千載集・恋三

思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり

道因

おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり

どういん

【 訳 】
(つれない人に対して、深く)思い嘆きながらも、死なないで命はあるものなのに、つらさにこらえきれないのは、(流れ落ちる)涙であるなあ。

083

5字決まり

よ行

千載集・雑中

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

藤原俊成

よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる

ふじわらのとしなり

【 訳 】
世の中よ、つらさから逃避する道はないのだなあ。思いつめて分け入ったこの山奥にも、「その通りだ」とばかりに悲しげに鹿が鳴いているよ。

084

3字決まり

な行

新古今集・雑下

長らへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき

藤原清輔

ながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき

ふじわらのきよすけ

【 訳 】
生き長らえるならば、(つらいことの多い)この頃のことが、懐かしく思い出されるであろうか。つらいと思った過去が、今では懐かしく思われることだよ。

085

2字決まり

よ行

千載集・恋二

夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり

俊恵

よもすがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり

しゅんえ

【 訳 】
一晩中、(つれない人のことを)思い嘆いているこの頃は、夜もなかなか明けきらないで、寝室の板戸の隙間まで(朝の光をもらさず)無情であったよ。

086

3字決まり

な行

千載集・恋五

嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな

西行

なげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな

さいぎょう

【 訳 】
嘆き悲しめといって、月は私に物思いをさせるのか、いや、そうではない。それなのに、いかにも月のせいにしているかのようにこぼれ落ちる、私の涙であるなあ。
▼ 「月前の恋」の題による歌。西行は、花・月・旅の詩人と評される。

087

1字決まり

む行

新古今集・秋下

村雨の 露もまだ干ぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮

寂蓮

らさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ

じゃくれん

【 訳 】
にわか雨の露がまだ乾かないで残っている杉や檜の葉のあたりに霧が立ちのぼる、秋の夕暮れだなあ。

088

4字決まり

な行

千載集・恋三

難波江の 葦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき

皇嘉門院別当

なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるへき

こうかもんいんのべっとう

【 訳 】
難波の入り江の葦の刈ね根の一節(ひとよ・ひとふし)のような、旅の仮寝のわずか一夜の契りのせいで、難波江の「澪標(みおつくし)」のように、身を尽くして、ずっとあなたを恋し続けなければならないのだろうか。
▼ 「難波江の葦の」は「かりね」を導く序詞。「かりね」に「刈り根」と「仮寝」とを、「ひとよ」に「一節(ひとよ)」と「一夜(ひとよ)」とを、「みをつくし」に「澪標」と「身を尽くし」とをかけている。

089

2字決まり

た行

新古今集・恋一

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする

式子内親王

たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よはりもぞする

しきしないしんのう

【 訳 】
わが命よ、絶えてしまうのならば絶えてしまえ。このまま生き長らえていると、(恋心を)人に知られまいと耐え忍んでいる力が弱くなって、人に知られてしまって、いけないから。

090

2字決まり

み行

千載集・恋四

見せばやな 雄島の海人の 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず

殷富門院大輔

みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず

いんぷもんいんのたいふ

【 訳 】
(恋の血の涙に濡れた私の袖を)あなたにお見せしたいものですね。あの雄島の漁師の袖でさえも、(波で)濡れに濡れていますが、(それでも、私の袖と同じようには)色は変わらないのですよ。
▼ 本歌は『後拾遺和歌集』恋四「松島や雄島の磯に漁りせし海人の袖こそかくは濡れしか」。「雄島」は松島湾にある島の一つ。

091

2字決まり

き行

新古今集・秋下

きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣片敷き ひとりかも寝む

藤原良経

きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ

ふじわらのよしつね

【 訳 】
こおろぎが鳴く、この霜の降りる夜の寒さのなか、小さな筵の上に衣の片袖を敷いて、私は独りでわびしく寝るのだろうかなあ。
▼ 「さむしろ」は「狭筵」と「寒し」とをかけている。「衣片敷き」はわびしい独り寝をいう。恋人との共寝なら、互いの袖を重ねて敷く。

092

3字決まり

わ行

千載集・恋二

わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし

二条院讃岐

わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし

にじょういんさぬき

【 訳 】
私の袖は、引き潮のときでも見えない沖の石のように、あの人は知らないでしょうが、悲しみの涙で乾く間もありません。
▼ 「潮干に見えぬ沖の石の」は「乾く間もなし」を導く序詞。

093

5字決まり

よ行

新勅撰集・羇旅(きりょ)

世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも

源実朝

よのなかは つねにもがもな なぎさこく あまのおぶねの つなでかなしも

みなもとのさねとも

【 訳 】
世の中は、いつまでも変わらないものであってほしいなあ。渚を漕いでゆく漁師の小舟の引き綱を引く光景は、昔も今も変わらずに、しみじみと趣が深いよ。
▼ 本歌は『古今和歌集』東歌「陸奥はいづくはあれど塩がまの浦漕ぐ舟の綱手かなしも」。しみじみと世の無情を深く嘆じた歌。

094

2字決まり

み行

新古今集・秋下

み吉野の 山の秋風 小夜更けて ふるさと寒く 衣打つなり

藤原雅経

みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり

ふじわらのまさつね

【 訳 】
吉野の山の秋風が夜も更けて吹き渡り、古い都のあった吉野の里はひとしお寒くなって、衣を打っている(その寒々とした音が聞こえる)ことよ。
▼ 本歌は『古今和歌集』冬「み吉野の 山の白雪 積もるらし ふるさと寒く なりまさるなり」。

095

3字決まり

お行

千載集・雑中

おほけなく 憂き世の民に おほふかな わが立つ杣に すみぞめの袖

慈円

おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで

じえん

【 訳 】
身の程をわきまえないことだが、つらいこと多いこの世の人々に(仏のご加護があるようにと)おおいをかけることであるよ。「わが立つ杣に」と

096

3字決まり

は行

新勅撰集・雑中

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり

藤原公経

はなさそふ あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり

ふじわらのきんつね

【 訳 】
桜の花を誘って散らかす激しい嵐の吹く庭は、まるで雪が降っているように見えるが、古(ふ)りゆく(年をとる)のは、この私であったのだなあ。
▼ 「ふりゆく」の「ふり」に、「降り」と「古(ふ)り」とをかけている。

097

2字決まり

こ行

新勅撰集・恋三

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ

藤原定家

こぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ

ふじわらのさだいえ

【 訳 】
いくら待っても来ない(約束の)人を心待ちにして、私はあの松帆の浦の夕なぎのころに焼く藻塩が焦げるように、恋しさに身も焦がれるように、恋しさに身も焦がれ続けているよ。
▼ 『百人一首』の撰者である藤原定家の自撰集。「まつほの浦の」から「焼くや藻塩の」までは「こがれつつ」を導く序詞。「まつほの浦」の「まつ」に「待つ」と「松」とをかけ、「こがれつつ」は、藻塩が焼き焦げる意と、思い焦がれる意とをかけている。「松帆の浦」は淡路島の北端の海浜で、歌枕。

098

3字決まり

か行

新勅撰集・夏

風そよぐ ならの小川の 夕暮は みそぎぞ夏の しるしなりける

藤原家隆

かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける

ふじわらのいえたか

【 訳 】
風が楢の葉にそよぐ、ならの小川の夕暮れは、(秋の訪れを思わせるが、この小川のほとりで行われる)禊(みそぎ)の行事が、まだ夏であることの証拠であったよ。
▼ 「ならの小川」は京都の上賀茂神社の境内を流れる御手洗川。「なら」には木立の「楢」をかけている。「みそぎ」は、六月晦日の、けがれを清める神事「夏越しの祓え」のこと。陰暦では七月からは秋である。

099

3字決まり

ひ行

続(しょく)後撰集・雑中

人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は

後鳥羽院

ひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは

ごとばいん

【 訳 】
(ある時には)人をいとおしく思い、(またある時には)人を恨めしく思う。おもしろくないとこの世を思うがゆえに、さまざまに思い悩む私は。
▼ 為政者の、思うにまかせない心境を打ち明けた歌。鎌倉時代初期の公武の対立・抗争の時代を背景として鑑賞するべき歌であり、「物思ふ」は恋に悩むの意ではない。

100

2字決まり

も行

続(しょく)後撰集・雑下

百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり

順徳院

ももしきや ふるきのきはの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり

じゅんとくいん

【 訳 】
宮中の古びた軒下に生えている忍ぶ草を見るにつけて、(皇室の権威が盛んだった時代は)いくら偲んでも偲びきれない、昔の時代のことなのだなあ。
▼ 「しのぶ」に「忍ぶ草」と「偲ぶ」とをかけている。

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 変わり種:ジョジョの奇妙な百人一首

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だいぶ、ベクトルが反れますが、
『ジョジョの奇妙な百人一首』(ジョジョのきみょうなひゃくにんいっしゅ)は、荒木飛呂彦先生の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の台詞を百人一首形式にしたカードゲーム、及び商品名である。

読み札100枚・取り札100枚の計200枚の札に合わせ本作のファンとして有名なケンドーコバヤシさんが句の朗読をしたCDが付属する。句は合計百種で、全て「ジョジョの奇妙な冒険」本編のセリフ中から選抜されている。上の句の札には原作からのイラストがカラーで印刷され、付属の「百人一首のしおり」には、各句の詳細な解説がされている。

バージョンは、
[1] 1部から3部のセリフで構成されている第1弾。(価格:6,300円)
[2] 4部から6部のセリフで構成されている第2弾。
[3] 総集編として、1部から7部のセリフから厳選して構成されている世界(ザ・ワールド)。デザインはザ・ワールドのカラーであるゴールドを基調にし、箱や札の素材にもこだわった雅な逸品!(価格:7,777円)
と3パターンあるそうです。

ジョジョの奇妙な百人一首
ジョジョの奇妙な百人一首
ジョジョの奇妙な百人一首

※ 『ジョジョの奇妙な百人一首』の画像の著作権は全て荒木飛呂彦先生、LUCKY LAND COMMUNICATIONS、集英社に帰属します。

《参考》
「日本語百科」「ウィキペディア」「ジョジョの奇妙な百人一首 THE WORLD 世界」より

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2011/12/19
お役に立てば、幸いです。

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